第38回 宮城全研に参加して (投稿)
2008年3月28日
清藤商事 清水信彦
宮城県仙台市で開催された第38回中小企業問題全国研究集会は、2008年3月6日(木)
と7日(金)に実施されました。釧路支部から参加の7名は、5日にJRで出発し、新千歳空港から仙台空港に降り立ち仙台市に入りました。帰りも同じ経路で7日に無事、全員帰釧しました。
全研の今回のテーマは、「よい会社と豊かな地域づくりを車の両輪に、日本の未来の土壌作りを」で、中同協が制定を目指している、ヨーロッパ小企業憲章に学んだ、日本での中小企業憲章制定運動とこの憲章に地域で枝葉をつけ、実体化させる中小企業・地域振興基本条例施行運動の取り組みを豊富化させるものとしての学びの場でした。
私は、昨年の沖縄全研に次いで2度目の全研参加でしたが、今大会は、昨年に増して、すばらしいものであったと感じています。参加者数は、1,400余名でした。何よりも基調講演、分科会と盛り上がっていって、畠山重篤氏のユーモアを交えた物語性のある記念講演で参加者全員が集中できたすばらしい研究集会だったと思います。少なくとも私にとっては、最高の全研でした。
基調講演は、前中同協会長で相談役幹事の赤石義博氏が「地域力経営とは」と題して、同氏の著述された「幸せの見える社会づくり」を副題としてお話されました。まず、なぜ今「地域づくり」が叫ばれているのかと言うことの分析として、中小企業が日本経済や地域経済で担って来、また、担ってゆく役割の重要性を述べ、その基盤の独自性は地域力であって、その個別要素、すなわち、地域の自然、地理的位置や歴史的文化遺産など、9つに分類した要素について解説されました。 次に、それらの要素を活用して、地域がいかに自立してゆくべきかを述べ、その全国的な理念と共通課題克服のために、「中小企業憲章」の制定の重要性を説明されるつもりであったと思われますが、この部分については、残念ながら時間が足りず全面展開され得ませんでした。
分科会は、『地域おこし活動の実践事例』の内の「環境・食糧・エネルギー、豊かな地域資源を生かしたくずまき高原郷づくり」副題、山村と都市との交流拠点をめざしてと題した、第10分科会に参加しました。
報告者は、岩手県葛巻町の第三セクター、葛巻高原食品加工(株)の漆真下満常務でした。
報告の始に、まず、ご自身の変わったお名前に触れられ、うるしまっかは、アイヌ語が語源であること。但し、意味については説明がありませんでした。私も質問を失しました。ただ、漆については、英語でjapan、すなわち日本ということであり、中国から伝来のように捉えられている向きがあるが、縄文時代の遺跡、三内丸山遺跡から漆を使ったものが出土しているので、日本には古来からあったものと考えられる。ただ、現在国内で使用されている漆、約500tの99%は中国産であり、国産は6t余りしか生産されていないと説明されました。
本題に入り、葛巻町は、年平均気温が8.2度Cで、人口8,000人弱、住民の3割である就労者のほとんどが農林業に従事しており、山林は面積の68%を占め、そのほとんどが民有林である。農業は酪農が主体で、人口よりも多い乳牛、11.000頭が飼育されおり、その生産額は、40億円で、食料自給率は、エネルギー換算で200%である。エネルギー自給率は、78%で、風力が、発電出力1,750kWhの風車が12基と出力は聞き漏らしましたが、その他に5基が稼動しており、牛糞を醗酵させてメタンガスを発生させるバイオガスシステムと太陽光発電も稼動させているとの事でした。
このような地域で、オンリーワンとして何が出来るかを考えて、辿り着いたのが、山葡萄を使ってのワイン造りであったという事です。当初、紆余曲折はありましたが、現在は、ワイン醸造から始まった豊かな地域づくりの活動を通して、年50万人が訪れるまでになっているとの事です。
来訪者が多いことが要因なのかは、定かでないのですが、町に3社ある第三セクターの会社はみんな黒字であるとの事でもありました。
今春には、都市からの来訪者を受け入れる体験学習館がオープンするので、「押し花づくり」「草木染め」「そば打ち体験」「豆腐づくり」や昔から伝わる食・文化が体験できる「菓子づくり」「木工体験」「つる細工」等々を学べるようにして、都市生活者との交流を発展拡大したいという事です。
報告の後の質問の時に、創業時の苦しい経営時期に、やはり、山葡萄を原料にしてワイン造りをはじめていた北海道池田町との技術交流が無かったのか聞いたところ、目標にはしたが独自で取り組む方針で進めたということでした。
グループ討論でのテーマは、1.あなたの住む地域にはどんな地域資源、魅力がありますか。2.山村と都市との交流を進めるために何が必要でしょうか。そこにはどんな役割があるでしょうか。私は、1.について、釧路には、国立公園が2つある事、釧路沖は暖流と寒流がぶつかり合うところなので、海霧が発生し、年平均気温が6度Cと冷涼で夏過ごし易く、魚類が豊富なので、漁獲量が多いばかりでなく、それを餌にするイルカ、シャチや調査捕鯨の対象にもなっているミンククジラなどの鯨類も観察できる事。また、釧路川は一級河川であるにもかかわらず、全国で唯一、ダムの無い川である事。更に、国内で唯一採炭を続けている釧路コールマインが存続している事などをまとめて喋ろうと思ったのですが、時間がなく、話せませんでした。ただ、「食」に関する討論の中で年平均気温が6度Cの釧路では、年中通して味噌作りが出来、減塩味噌の醸造も容易であることを釧路の特性として述べました。
また、発表で、第1グループが纏めの一つとして述べていましたが、地域経済を再構築していく上で、農業の役割が、重要ではないかと提起され、私たちの第3グループでもその事が討論されました。私は、農業は、英語でagricultureであり、cultureは、文化そのものを表している様に、文化は、農業を出発点として形成されてきたことを現していると述べ、日本語でも、農業と表現してしまうと理解できませんが、百姓と表現すると明快ではないかと述べました。すなわち、百は、数字の100を表すばかりでなく、「多くのもの」「種々のもの」という意味があり、姓は、訓読みすると「かばね」で、上代に、家筋や世襲の職名を分けた称号という意味があるので、百姓は、種々の職名を持った人となり、あらゆる仕事が出来る人という意味になるという事です。地域農業を見直すことは、文字通り地域文化を見直すことに繋がると思います。
あと、グループ討論の中で、はじめて知った事として、郷土料理の意味があります。郷土料理とは、半日で集まる食材を使用した料理の事を言うのだそうです。何が郷土料理なのかと不思議に思っていたことでしたから、目から鱗でした。2.については、グループに、インターネット販売をしている人が、2人居ましたので、デジタル技術で情報発信して拡大し、継続的な関係は、アナログの「顔と顔が見える関係」を創ることによってリピーターを増大させながら、山村と都市との交流を進化・拡大させ得るという結論を引き出しました。
最後の記念講演は、「森は海の恋人」と題して、この合言葉の下、全国の漁協の女性・青年部が、山に木を植える活動をするきっかけを創った、畠山重篤氏のお話でした。
森林と海との生態系の関係は川を媒介にして繋がっていることを説明し、生態系、食物連鎖のピラミッドの最底辺を担っている植物プランクトンは、鉄分(Fe)がなければ繁殖せずその鉄分は、腐葉土の中を水が通ってくる過程で、その水の中に吸収されたフルボ酸鉄となって、川から海へと運ばれてくる。その結果、海岸の藻場は、植物プランクトンが増え、それを食べる動物性プランクトンも増えて、海藻が豊かに繁茂する場所となる。その藻場の海藻類が、光合成をして炭酸ガス(CO2)の炭素を固定してくれる。この事を考慮に入れると、日本の場合、日本一周の海岸に、1・2級河川が約21,000本あるので、CO2削減をいっぺんに解決できる条件があると説明されました。ちなみに、日本の海岸線の1・2級河川は、約1Km毎に1本流れているので、これだけの本数になります。
また、中国から偏西風に乗ってきて、厄介者と思われている黄砂は、日本に鉄分を運んでくれている有益なものであると述べられ、更に、世界の海を繋げている海洋深層水を活用すれば、植物プランクトンを発生させる鉄分を地球全体の海へ運ぶことが出来、その結果、海岸の浄化が進み、豊かな藻場が形成されるなら、CO2による地球温暖化は世界的に解決できるのではとの示唆を述べられました。まさに、気仙沼の牡蠣・ホタテ養殖が、地域、国やアジアのみならず全世界の生態系と繋がっている事として展開された、すばらしい講演で、感動しました。
以上、私が記録すべきことも含めて纏めましたので、長々と述べましたが、釧路市中小企業・地域振興基本条例の施行に取り組む上で大いに役立つ全研だったと感じています。最後になりましたが、この全研に参加できる条件を整え、後押ししていただきました釧路支部会員並びに事務局の皆さんに感謝して、報告といたします。